建築と風景。風景を“つくる”のではなく、“受け入れる”ということ

建築は風景を支配しない

かつて建築は「風景を変えるもの」として語られてきました。
しかし本来、建築は風景の一部であり、その中に静かに溶け込む存在です。
主張ではなく、調和こそが“美しさ”の起点になるのです。

住宅は、暮らしの風景そのものです。
窓を開けたときに見える景色、庭に落ちる影、季節の移ろい。
性能とデザインの家では、外部の風景を受け入れる設計を重視しています。

店舗はしばしば“目立つため”につくられますが、本質はその逆にあります。
地域の空気や道行く人の気配を引き込むことで、空間は自然と風景に溶け込みます。
店舗デザインの多くも、“街の一部”として設計されています。

建築は、風景を額縁のように切り取る装置でもあります。
一枚の窓が、世界の見え方を変える。
そこに住む人の記憶と感情が、風景を完成させるのです。

完全な自然も、完全な人工も存在しません。
両者の“あいだ”で揺らぐ曖昧な領域こそ、建築が最も豊かに息づく場所です。
ポートフォリオでも、地形や光を取り込んだ作品を紹介しています。

風景の中で建築が静かに佇むとき、人は安心を覚えます。
それは、建築が“何もしていないようで、すべてを受け入れている”からです。

風景をつくるのではなく、風景に耳を澄ますこと。
その謙虚な姿勢の中に、建築の本質があるのだと思います。